衝突の恐怖〜バスケットボールでのトラウマ
私が今まで関わらせていただいたイップス、ジストニアにかかってしまった方々は、音楽家、野球選手(ピッチャー)、ゴルファーでした。どれも自分から発するもので、考える時間があることが共通点でした。
イップスという言葉は、元々ゴルフで生まれました。
今まで関わった方々の症状の元になっている、メンタルの制限の共通点から、サッカーやバスケットボールのような、相手やボールに対して反射で動いて考える時間がない競技には、イップスはないだろうと考えていました。
しかし、別のメンタル制限があることがわかりました。
突発的な衝突による痛みやケガの恐怖です。
先日、ボディの勉強(※注)でお会いしたバスケットボールプレイヤーに
「メンタルも見てるんですね。私実はかなりトラウマがあって。バスケをやるんですけど、人が集まっているところに入っていくのが怖いんです。
昔、リバウンドを取ろうとしてジャンプしたときに、空中で後ろから当たられたことがあって。バランスを崩して着地したときに、膝の前十字靭帯を切っちゃったんです。」
というお話しを聞きました。
そりゃトラウマになるわ。
私ならそのままバスケやめますね。でも彼女はそうではありませんでした。手術とリハビリをがんばり、プレイ自体は問題なくできるようになったそうなのですが、ジャンプすることが怖くなってしまいました。人がもみ合っている中にボールを取りに行くのも怖くなってしまいました。
バスケはかなり激しいスポーツだそうで、肘が鼻に当たって鼻骨が折れたとか、衝突によるケガが多いのだそうです。
実はこういうトラウマを外すのは難しいです。外せないとは言いませんが。
だって、またケガをするであろう可能性は、なくならないからです。
トラウマというのは、自分を守るために、臨戦態勢が解けないでいる状態です。
例えば、戦場に行った兵士がトラウマを抱え、母国に戻っても安心して眠れない、常に動悸がして、いつ敵が襲ってくるかとずっと緊張が続くというものがわかりやすいでしょうか。戦争していない母国にいるにも関わらず、あたかも今も戦場にいるかのように身体が反応するのは、外すことができます。
脳に「もう安全だから、臨戦態勢を解除しても良いよ」とわからせれば良いです。人を殺してしまった罪悪感などのトラウマはまた別の扱いです。そちらに関してはもうひとつのメンタルブログ(http://ameblo.jp/kamisamanorule/)に詳しいです。
ちょっと脱線しますが、私の記事を読んで、「そうか、臨戦態勢を解除するために、もう安全だよって教えてあげればいいのか!」という勘違いをして、何かわかった風に他人に言い始める人などいらっしゃいますが、マジでやめてくださいね。それは、「そうか、腫瘍は手術で切除すればいいんだ!」っていうのと同じです。誰が切除するのよって話しです。手術で切除すれば良いと知っていることと、腫瘍を特定して実際に切除するだけの技術があることとは、雲泥の差というか全く別の話しです。
話しを戻します。
臨戦態勢を解くには、もう安全であることが前提です。安全でなければ、実際のところ臨戦態勢を解くわけにはいきません。
バスケットボールの戦場に入っていくということは、臨戦態勢を解くわけにはいかないのです。そうなると、別の方法で恐怖を克服する必要があります。安全である場合は恐怖を外せます。安全でない場合、恐怖を克服する必要があります。克服するのは、外すより手順が多く難しいです。カウンセラーの技術だけでなく、プレイヤーの側にも努力が必要です。
第1段階としては、先程紹介したバスケットボールプレイヤーさんの場合、すでにケガは治っていること、ケガをする以前と遜色なく動けることを、脳に自覚させます。
「でも、視覚の外から当たられるんです。どうしようもないんです」
と思ってしまうのは、潜在意識から制限がかかっています。まだ、後ろからぶつかられたという当時のトラウマが今を支配している状態です。このトラウマは、外せば良いです。
第2段階として、ケガをした当時より、状況判断力の向上や受け身の取り方を覚えたなど、もし同じ事故が起きても、当時ほど大きなダメージを受けないであろう証拠を確認していきます。
第3段階になると、第2段階で残る技術不足を克服していきます。素人よりプロが、プロでも技術が高いほどケガしにくいと聞きますが、バスケットボールでも同じことは言えるでしょうか。ケガをしないとしにくいはまた別なのですが、技術を向上させることにより、リスクを下げることはできるはずです。ケガをするかもしれないと不安になるよりも、どうやってケガを避けようそのために何ができるだろうと考えられるようになれば、克服したと言えるのではないでしょうか。リスクを下げる努力をせず、ケガをする可能性に怯え続ける選択をするなら、バスケやめたら?と思います。ここは選択と決断です。
このように3段階で克服していく必要がある場合は、時間がかかります。カウンセラーが責任を持てるのは第2段階までです。第3段階になれば、カウンセラーなしか、入ってもサポート程度になります。
ほう、そういうメンタルから来るパフォーマンス制限もあるかと新しいデータをくださったお礼に、その方には軽く第2段階まで外しておきました。ただ、料金をいただいたカウンセリングではないので、5分程度で見える範囲をちゃちゃっとやっといた程度ですが。
今回の衝突のトラウマは、イップスとはまた症状の出方が違って、より自覚的です。しかし、カウンセリングによって第2段階までの関わりはでき、恐怖心を減らすことはできます。
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